予防抗菌薬投与について【歯科医療従事者向け】

予防抗菌薬投与 歯科関係者向け情報

この記事では予防抗菌薬投与について、これまでの私の知見とガイドラインを中心に分かりやすくまとめました。

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予防抗菌薬投与とは

抗菌薬は本来、感染症に対する治療に使うべき薬です。
歯科ではこれまで慣例的に抜歯等の処置後に、予防的に処方されてきましたが、これは本来の使用法ではありません。

ただ、例外的に抗菌薬を予防として使用することが推奨されているのは、
①手術部位感染(SSI:Surgical Site Infection)の予防、
②感染性心内膜炎(IE:Infectious Endocarditis)の予防に対する時です。

手術部位感染(SSI:Surgical Site Infection)の予防について

SSIの原因は手術中の細菌による汚染と考えられますので、予防抗菌薬投与は手術前に行います。体にメスが入る(手術が開始する)時点で、抗菌薬の十分な血中濃度が必要なため、手術開始1時間前以内の投与が必要です。現在は、手術後数時間まで抗菌薬の血中濃度が適切に維持されていれば、その後の抗菌薬投与は必要ないとされています。

しかし、抜歯後等で感染している場合は、予防抗菌薬の概念ではなく、治療のための抗菌薬投与が必要になります。

口腔内での感染の原因となる細菌は主に、嫌気性菌と連鎖球菌のため予防抗菌薬の第一選択はAMPC(アモキシシリン、サワシリン®)になります。
βラクタム系抗菌薬にアレルギー(ペニシリンアレルギー等)がある場合は、CLDM(クリンダマイシン、ダラシン®)やCAM(クラリスロマイシン、クラリスロマイシン®)を使用します。

術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドラインについて

下記に歯科口腔外科領域に関する内容を抜粋しました。
・心内膜炎やSSIのリスク因子がない抜歯の場合は、予防抗菌薬投与は推奨されていません。(歯科医院での多くの抜歯において、抗菌薬の投与は必要ないということです。)
・SSIのリスク因子がある抜歯の場合は、AMPC(経口1回250mg~1g)またはCVA/AMPC(経口1回375mg~1.5g)を推奨されています。
・感染性心内膜炎の高リスク症例で抜歯の場合は、ABPC(注)またはAMPC(経口1回2g)を推奨されています。
・下顎埋伏智歯抜歯手術の場合は、AMPC(経口1回250mg~1g)またはCVA/AMPC(経口1回 375mg~1.5g)を推奨されています。
・歯科インプラント埋入手術の場合は、AMPC(経口1回250mg~1g)を推奨されています。
・下顎骨骨折手術(口腔内切開を伴わない)の場合は、CEZを推奨されています。
・下顎骨骨折手術(口腔内切開を伴う)、顎変形症手術、顎骨腫瘍・顎骨嚢胞手術(口内法)、顎骨悪性腫瘍手術(辺縁・部分切除にとどまる)、顎骨悪性腫瘍手術(遊離皮弁を用いるもの)の場合は、SBT/ABPCまたはCMZを推奨されています。

感染性心内膜炎(IE:Infectious Endocarditis)の高リスク症例について

歯科口腔外科手術に際しての成人におけるIEの基礎心疾患別リスクは下の図のとおりです。

この記事が少しでも参考になれば幸いです。

【参考文献】
・最新口腔外科学第5版(榎本昭二他、医歯薬出版株式会社)
・術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン(日本化学療法学会/日本外科感染症学会、術後感染予防抗菌薬適正使用に関するガイドライン作成委員会編)
・感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン2017年改訂版(日本循環器学会編)

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