この記事では、歯牙移植と意図的再植(歯牙再植)について、これまでの私の臨床経験と知見を中心に分かりやすくまとめました。
歯牙移植とは
主に奥歯を抜いた所に親知らずなどの自分の歯を移植する治療で、その後根っこの治療を行い、最終的には被せ物(クラウン)を装着します。状況により保険適用でない場合もあります。
歯牙移植の流れ
- エックス線撮影、診察をして、歯牙移植が可能かどうか診断する。
- 手術当日、まず手術部位に局所麻酔をする。
- 親知らずの抜歯と移植先の歯を抜歯する。
- 移植する歯や骨を削り、サイズを合わせる。
- 手術の最後に、移植した歯を縫合糸や歯科用の接着剤で固定する。
- 術後約2週間後から移植した歯の神経の治療(根管治療)を行う。
- 術後約1ヶ月で固定を除去する。
- 術後約2~3ヶ月で最終的な被せ物(クラウン)を装着する。
歯牙移植の適応
・抜歯窩(抜歯後の穴)と移植する歯(親知らず等)の大きさが合う場合
・奥歯(大臼歯)が抜歯と診断された場合
・親知らずが真っすぐ生えていて虫歯になっていない場合
移植歯の寿命
個人差はありますが、術後5~8年と言われています。長い方では10年以上機能します。
意図的再植(歯牙再植)とは
外傷などで歯が抜けてしまった場合、根管治療の予後が良くない場合に、一度歯を抜いて歯根の処置をした後に、再度歯を元の場所に戻す治療法のことです。最終的には被せ物(クラウン)を装着します。状況により保険適用でない場合もあります。
意図的再植の流れ
- エックス線撮影、診察をして、歯牙再植が可能かどうか診断する。
- 手術当日、まず手術部位に局所麻酔をする。
- 一度歯を抜歯する。
- 歯の神経の治療(根管治療、根管充填、逆根管充填)を行う。
- 抜歯窩(歯を抜いた穴)の掻爬(掃除)、洗浄を行う。
- 抜歯窩に歯を戻す。
- 戻した歯を縫合糸や歯科用の接着剤で固定する。
- 術後約1ヶ月で固定を除去する。
- 術後約2~3ヶ月で最終的な被せ物(クラウン)を装着する。
意図的再植の適応
・根管治療を行ったにも関わらず症状の改善が見られない場合
・根管の詰まり、歯根穿孔、根尖の破壊、リーマーやファイル(根管治療に使用する針金)の破折等により適切な根管治療ができない場合
・歯冠-歯根破折、歯槽骨骨折がある場合
・歯根破折することなく抜去できる歯の場合
・歯周組織の状態が良好な歯の場合
・脱臼した歯(意図的再植ではなく、歯牙再植です)
意図的再植の成功率
成功の要件としては再植手技の時間は18分以内が必要とされており、6年生存率は75%という報告があります。
意図的再植後の注意点
処置後に置換性歯根吸収、アンキローシス(骨性癒着)、炎症性歯根吸収が問題となります。これらの予防には感染源の封鎖と健全な歯根膜保存が重要と考えられています。処置後は長期の経過観察は必須であるため、定期的チェックが必要になります。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士
【参考文献】
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)
・歯の外傷治療ガイドライン(日本外傷歯学会編, 2012)
・歯内療法ガイドライン(日本歯内療法学会編, 2009)
・Dental Traumatology.(Tsukiboshi et.al, 2012)
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