この記事では顎関節症〈がくかんせつしょう〉について、これまでの私の臨床経験と知見を中心に分かりやすくまとめました。
顎関節症とは
何らかの原因により、顎関節や周囲の筋肉(咀嚼筋)に負担がかかり痛み等の症状が出ることです。
主な症状は、
- 顎関節やその周辺が痛い
- 口が開かない
- 口を開け閉め時に顎関節がカクカクと音がする、の3つです。
顎関節の構造
まずは、顎関節の構造について説明します。
顎関節は、耳のすぐ前にある下顎を動かすための関節で、耳の前に指を当てて口を開け閉めすると動くのがわかります。
顎関節の主な構成は、下顎窩〈かがくか〉、下顎頭〈かがくとう〉、関節円板〈かんせつえんばん〉、関節包〈かんせつほう〉、咀嚼筋〈そしゃくきん〉です。
・下顎窩は、頭蓋骨〈とうがいこつ〉の側頭骨〈そくとうこつ〉にある 骨のくぼみのことです。
・下顎頭は、下顎にある丸い突起のことです。
・関節円板は、下顎窩と下顎頭にある軟骨のことで、骨と骨の間でクッションの役割を果たしています(膝関節にある半月板〈はんげつばん〉と同じです)。関節腔には滑液〈かつえき〉で満たされています。
・関節包は、これらの関節組織を包んでいる繊維質の膜による袋のようなものです、
・咀嚼筋は、顎関節の周囲に存在しているおり、口を開け閉めする時に使っている筋肉(閉口筋〈へいこうきん〉と開口筋〈かいこうきん〉)でいくつものがあります。
・閉口筋には、内側翼突筋〈ないそくよくとつきん〉、外側翼突筋〈がいそくよくとつきん〉、側頭筋〈そくとうきん〉と咬筋〈こうきん〉があります。
・開口筋には、顎二腹筋〈がくにふくきん〉、オトガイ舌骨筋〈おとがいぜっこつきん〉、顎舌骨筋〈がくぜっこつきん〉があります。
顎関節の動きは、口を開けると開け始めは下顎頭が回転し、その後下顎窩に沿って前方へ滑り出して動きます。
顎関節症の原因
原因は幾つかあり主なものには、
- 咬み合わせによるもの
- 精神的なストレスによるもの
- 頬杖、片側での咬み癖、睡眠時姿勢、歯の接触癖等の日常生活での癖によるもの
- 歯ぎしりや食いしばりによるもの
- 外傷によるもの
- スポーツや楽器演奏によるもの、等があります。
顎関節症の分類
顎関節症の種類は、下記のように大きく分けて5種類になります
・Ⅰ型(咀嚼筋が原因のもの):顎関節や周囲の筋肉(咀嚼筋)に障害が起こっている状態
・Ⅱ型(関節包・靭帯が原因のもの):顎関節を包んでいる組織や靭帯に障害が起こっている状態
・Ⅲ型(関節円板が原因のもの):関節円板というクッションが正常な位置からずれている状態
・Ⅳ型(変形した関節が原因のもの):顎関節を構成している骨が変形している状態
・Ⅴ型(その他):Ⅰ~Ⅳ型に該当しないもの
顎関節症の診査診断
診査には、顎関節・咀嚼筋・口腔内の診察、エックス線検査、MRI検査等があり、
診断は、それらを組み合わせて、顎関節症のどの分類に当てはまるのかを診ていきます。
顎関節症の治療
治療には、咀嚼筋マッサージ、温罨法(ホットパックなどで温める方法)、マイオモニター、レーザー療法、運動療法(筋伸展訓練)、薬物療法(鎮痛剤、筋弛緩薬)、スプリント(マウスピース)療法、咬合治療、外科治療等があります。
顎関節症の分類による治療方法は主に、下記のようになります。
Ⅰ型:咀嚼筋マッサージ、温罨法(ホットパックなどで温める方法)、マイオモニター、レーザー療法、運動療法(筋伸展訓練)、薬物療法、スプリント(マウスピース)療法
Ⅱ型:運動療法(顎関節可動化訓練)、薬物療法、スプリント(マウスピース)療法
Ⅲ型:運動療法(徒手的顎関節授動術:術者によるマニピュレーション、顎関節可動化訓練)、スプリント(マウスピース)療法
Ⅳ型・Ⅴ型:MRIやCT等の精密検査になるため専門医での受診が必要になります。
専門医では、下顎頭の変形等で顎位の変化とともに咬合不全が生じた場合には口腔機能回復療法としての補綴歯科治療、矯正治療、外科治療等が必要となる場合があります 。
詳しくは担当の歯科医師にご確認下さい。
今回は顎関節症についてまとめてみました。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士
【参考文献】
・顎関節症治療の指針 2020(一般社団法人日本顎関節学会 編)
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)
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