この記事では顎下腺唾石症について、これまでの私の臨床経験と知見を中心に分かりやすくまとめました。
唾石症とは
唾液腺導管内に結石を生じる疾患で、顎下腺に最も多く(約80%)、耳下腺、舌下線、小唾液腺にも生じます。
顎下腺唾石症は、ワルトン管内および腺体移行部に生じることが多いですが、腺体内に生じることもあります。
唾石の大きさは数mmから5cmほどに及ぶものまで様々で、個数は1個のものが多いですが複数個のものもしばしば見られます。
唾石の色は、一般に帯黄白色あるいは褐色を呈しています。
成因の詳細は不明ですが、導管の炎症、唾液の停滞、唾液の性状の変化によって、唾液中のリン酸カルシウムの析出が起こり、アパタイト結晶へと変わっていくと考えられています。
臨床所見
症状は、食物摂取時に唾液腺の腫脹および疼痛(唾仙痛)を生じ、数分から数十分で腫脹と疼痛が消退して、これを食事の度に繰り返します。
唾石症このような経過を辿ることが多いですが、無症状のまま経過することや急性化膿性唾液腺炎を伴うこともあります。
エックス線所見
パノラマエックス線画像では下顎角部周辺にエックス線不透過像として描出されます。
CT画像を用いて精査が必要で、唾石の位置(舌下小丘の近傍、腺管内、腺体内)および数の同定を行います。
また、急性唾液腺炎を伴う場合では、造影CTやMRIでの検査も必要になります。
治療方法
ここでは顎下腺唾石症の治療法について記載します。
ワルトン管は、顎下腺深部の前端から顎下腺外に出て、顎舌骨筋の後縁を上方に向かい、顎舌骨筋、舌骨舌筋とオトガイ舌筋の間を通ります。
その後、舌下線の内側を前方へ向かい、大舌下線管とともに舌下小丘に開口します。
開口部付近の小さな唾石は自然排出することもありますが、一般的には外科的に摘出することが多いです。
顎舌骨筋後縁より前方にある唾石は口腔内から摘出し、後縁を越えたものは口腔外から顎下腺とともに摘出します。
口腔内からの摘出では、双手診にて唾石の位置を確認し、唾石の遠心側に縫合糸をかけ、唾石がワルトン管の奥に移動しないようにします。
そして、顎下腺を顎下部から口腔内に向かって上方に押し上げ、唾石を口腔粘膜表層側に位置させるように固定し、唾石直上の粘膜を切開します。
舌下小丘から涙管ブジーを挿入しワルトン管を確認(舌神経と舌下静脈が並走しているので注意を要します)して、ワルトン管に縦切開を加えて唾石を摘出します。
ワルトン管後方の第2大臼歯レベルで、後外方からワルトン管の下をくぐって、前内方(舌)へ並走するのが舌神経です。
ワルトン管の縫合はせずに、口底粘膜のみを創が離開しない程度に縫合します。
ワルトン管後方の唾石を口腔内から摘出する場合は、全身麻酔下での行うことをお勧めします。
口腔外からの摘出は、顎下腺摘出術に準じます。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
【参考文献】
・最新口腔外科学第5版(榎本昭二他、医歯薬出版株式会社)
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