妊婦と歯科について【歯科医療従事者向け】

妊婦と歯科 歯科関係者向け情報

この記事では妊婦と歯科治療について、これまでの私の臨床経験と知見、ガイドラインを中心に分かりやすくまとめました。

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妊娠月数と週数

妊娠中の歯科治療の時期について

妊娠中期(16~27週)が安定していて治療に適しています。

妊娠前期(15週まで)は妊娠悪阻(つわり)や胎児奇形への影響、流産などもしやすい時期です。

妊娠後期(28週以降)も胎児が大きくなり仰臥位低血圧症候群や早産のリスクなどを伴うため、この時期の治療はなるべく避け、応急処置に留める方が良いとされています。

妊婦の治療時に気を付けること

・仰臥位低血圧症候群
妊娠末期の妊婦が仰臥位になった際に、増大した子宮が脊椎の右側にある下大静脈を圧迫し、心臓へ戻る血液が減少するため血圧低下を生じます。

症状は顔面蒼白、冷汗、頻脈、悪心嘔吐、呼吸困難などを認めます。

治療は左側臥位(左側が下になる様に横になる)となることで下大静脈の圧迫が解除され、症状が改善します。

・妊娠合併症
高血圧や糖尿病等、妊娠により合併症が出現する場合があり注意を要します。

奇形についての考え方

先天異常の頻度は全分娩の2~4%、そのうち3%が母体の環境的な要因(薬剤・放射線・感染)と言われ、全体に占める環境的要因は約0.1%に過ぎません。

しかし、実際に先天異常児が生まれた場合、処置や薬剤の影響を否定することは不可能なため、原則としてできるだけ投薬や処置は控えるのが良いと考えられています。

エックス線撮影に関して

歯科エックス線であれば胎児には影響はないとされています。

産科ガイドラインでは「受精後11日~妊娠10週での胎児被曝は奇形を発生する可能性があるが、50mGy未満では奇形発生率を増加させないと説明する」と記載されています。

頭部の単純撮影による胎児被曝量は0.01mGy以下で、さらに腹部遮蔽をすれば歯科用X線撮影はほとんど問題となることはありません。

妊婦への薬剤投与に関して

妊娠中に投与された薬物の胎児への影響は服用時期が重要となります。

・受精前~妊娠3週(all or none期)
受精以前は影響を受けません。また、受精後は影響を受けても完全に回復するか着床しないため胎児は影響を受けません。

・妊娠4~7週(絶対過敏期)
胎児の中枢神経(脳、神経)や心臓、胃腸、手足など重要な器官が形成される時期であるため、催奇形性の点では最もリスクがあります。
よって、薬剤は十分慎重な判断を要します。

・妊娠8~15週(相対過敏期)
重要器官の形成は終わっていますが、性の分化や口蓋の閉鎖などに関連しています。
催奇形性があるとされる薬剤は慎重投与が必要となります。

・妊娠16週~分娩(妊娠中期以降)
薬剤による奇形などの形態異常は発生しませんが、機能や発育の抑制には関連するため安易な薬剤投与は控えましょう。

薬剤投与が必要な場合

不要な薬剤投与は控えるべきですが、薬剤投与が必要な場合に使用しない方がデメリットとなる場合には有益性投与の判断となります。

下記の薬剤は一般的な目安となります。

  • 抗生物質
    ・ペニシリン系、セファム系、マクロライド系は安全に使用できるとされています。
    ・アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系の使用は避けましょう。
  • 消炎鎮痛剤
    ・アセトアミノフェンは妊娠中も比較的安全に使用できるとされています。 ただし、短期間の使用に留めるべきとされています。
    ・非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)は妊娠後期に胎児動脈管収縮を引き起こす可能性があり、妊娠後期の使用は禁忌とされています。
    ・妊娠初期の流産に対する影響は不明、妊娠中期~後期の羊水減少の報告もあり、現状では投与が必要な場合は必要最小限の用量で短期間処方すべきと考えられます。
  • 局所麻酔
    ・キシロカイン(+エピネフリン添加)を通常量(カートリッジ2~3本)の使用は問題ないと考えられます。
    ・キシロカインはFDA categoryB(動物試験での危険性は否定、ヒトでは不明)であり、エピネフリンも通常量の使用では弱い子宮弛緩作用により胎盤血流量を増加させると言われています。

    ★避けた方が良い局所麻酔の薬剤
    ・プロピトカイン(シタネストⓇ)は胎児濃度が高くなり、大量投与によりメトヘモグロビン血症が発現し、酸素供給が減少する可能性があるとされています。
    ・メピバカイン(スキャンドネストⓇ)は FDA categoryC(動物試験で胎児の有害性が証明)とされています。
    ・フェリプレッシンは分娩促進作用があるとされ、妊娠後期の使用は避けた方がよいでしょう。
  • 消毒薬
    ・経皮投与でも胎児に影響を与える可能性が指摘されています。
    ・ポピドンヨード(イソジン液Ⓡなど)でも、胎児の甲状腺異常の原因となる可能性があるため、短期間の使用は問題ありませんが、長期間の使用は避けましょう。

妊婦に使用可能な薬剤の一覧

胎児毒性が報告されている薬刺の一覧

この記事が少しでも参考になれば幸いです。

【参考文献】
・産婦人科診療ガイドライン2017 (日本産科婦人科学会・日本産婦人科学会編、Obstetrical-practice.pdf (jcqhc.or.jp)
・妊娠・授乳と薬 対応基本手引き 改訂2版(愛知県薬剤師会、妊婦・授乳婦医薬品適正使用推進研究班編、Microsoft Word – H24.11.05修正反映 (pref.aichi.jp)
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)

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