この記事では口腔がんについて、これまでの私の臨床経験と知見を中心に分かりやすくまとめました。
口腔がんとは
口にできる悪性腫瘍で、口腔がんに罹患する人の数は、年間約8000人で、全てのがんの約1%を占め、その多くが扁平上皮癌〈へんぺいじょうひがん〉です。
女性よりも男性に多い傾向があり、発症しやすい年齢は60歳代で以降です。
発生部位は口唇、舌、口底、歯肉、頬粘膜、硬口蓋〈こうこうがい〉(口腔の上部前方の硬い部分)等ですが、最も頻度が高いのが舌がんで、口腔がんの約40%を占めます。
がんの性質は、①進行が速い、②腫瘍の周りが硬く、ときに出血や痛みを伴う、③腫瘍の境界がはっきりしない、④転移する、等です。
口腔がんの原因
・喫煙、飲酒
・熱い物、辛い物等の刺激の強い食べ物
・う蝕(虫歯)、合っていない義歯等による慢性的な刺激
・前がん病変である白板症
口腔がんの症状
・痛み(一番多い)
・発赤
・ただれ(びらん)
・違和感
・潰瘍
・白斑等
・首のリンパ節に転移する(硬いしこりを触れる)ことがありますが、首の腫れが初めの症状となることは少ないです。
診断までの検査
・ルゴール染色検査
0.2~1.0%のヨウ素・ヨウ化カリウム溶液を口腔粘膜に塗布して検査する方法です。ヨウ素・でんぷん反応を用いた染色の程度で判断します。
正常粘膜は細胞内にグリコーゲンを含んでいるため、ルゴール染色でヨウ素・でんぷん反応が起こり、粘膜が茶色に染色されます。
正常でない粘膜(口腔扁平苔癬、口腔白板症、口腔紅板症、口腔がん)は、グリコーゲンを含まないので茶色に染色されず不染帯の部分が確認できます。
不染帯が認められる部分については、必要に応じて、細胞診、生検と検査を進めていきます。
・細胞診
細胞診はできものの表層の細胞を少しぬぐい取り、顕微鏡で検査する簡便な検査方法です。局所麻酔はせず、できものの表面を歯間ブラシ等でこすって採取します。
結果はその細胞の種類により、5段階(クラスⅠ〜Ⅴ)で評価します(パパニコロウ染色)。
クラスⅠ:正常細胞(異常はなし)
クラスⅡ:異型細胞は存在するが、悪性ではない
クラスⅢ:Ⅲa 軽度・中等度異型性(悪性を少し疑う)
クラスⅢ:Ⅲb 高度異型性(悪性をかなり疑う)
クラスⅣ:悪性細胞の可能性が高い
クラスⅤ:悪性と断定できる異型細胞がある
・生検
局所麻酔後に、メス等で病変部から組織を採取し、病理検査(顕微鏡で細胞を詳しく見る検査)を行って診断をする方法です。この検査は出血を伴うため、もし採取した病変ががんであった場合は、この検査によりそのがんが転移することも考えられます。
そのため、この生検を行う際は、検査後のことも考慮し、口腔がんの治療(手術、化学療法、放射線療法等)を行っている病院での検査をおすすめします。
口腔がん治療のための検査
・CT検査
・MRI検査
・超音波検査
・PET-CT検査
・血液検査
がんの正確な位置や範囲を確認するためには、CT検査やMRI検査は不可欠であり、超音波検査を行うこともあります。さらに全身への転移が疑われる場合は、PET-CT検査を行うこともあります。
口腔がんの治療
手術療法、抗がん剤による化学療法、放射線療法の3つを単独あるいは組み合わせて治療します。
口腔がん全体の治癒率は、5年生存率が60~70%で、初期のものはほとんどが治癒します。
主な治療法は手術です。がんは周りの正常な部分にも入り込んでいることが多いため、手術ではがんの周りの正常な部分を含めて切り取ります。がんが小さい場合は切り取る範囲も小さく、機能に影響が出る可能性は低いです。しかし、進行がんの場合は、切除範囲が大きく、咀嚼や嚥下、構音などに障害が生じることが多いです。
また首のリンパ節に転移が見られる場合は、リンパ節とその周囲の組織を取り除きます。早期舌がんでも術後約20〜30%に首のリンパ節に転移が認められるため、がんを取り除く手術と同時に首のリンパ節の手術が行われることがあります。
手術でがんを取りきれなかった場合や首へのリンパ節転移が進行している場合では再発および死亡率が高いため、術後に抗がん剤治療と併せて放射線治療を行います。
症例写真
舌がん
口腔底がん
上記のような口腔がんの症状が疑われる場合は、早めに総合病院の歯科口腔外科を受診することをお勧めします。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士
【参考文献】
・最新口腔外科学第5版(榎本昭二他、医歯薬出版株式会社)
・第5版 SIMPLE TEXT 口腔外科の疾患と治療(栗田賢一他、永末書店)
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)
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