この記事では副鼻腔炎(蓄膿症)、特に上顎洞炎に関して、これまでの私の臨床経験と知見を中心に分かりやすくまとめました。
副鼻腔炎、上顎洞炎とは
上顎洞〈じょうがくどう〉は副鼻腔〈ふくびくう〉(顔面の骨にある空洞)の一つです。
副鼻腔にはその他に、前頭洞〈ぜんとうどう〉・篩骨洞〈しこつどう〉・蝶形骨洞〈ちょうけいこつどう〉があります。
副鼻腔の存在理由は不明ですが、頭の骨を軽くするため、外力を分散させるため、声を響かせるため等と言われています。副鼻腔内は小さな毛(線毛)の生えた粘膜で被われ、この線毛により、異物を鼻腔へ移動させます。
副鼻腔炎の種類には急性と慢性があり、慢性副鼻腔炎は蓄膿症とも呼ばれます。
蓄膿症とは炎症が慢性化し粘膜が厚くなり、鼻腔への連絡通路が塞がって分泌物や膿が副鼻腔の中で溜まった状態です。
副鼻腔炎の診断には、エックス線やCTによる検査を行います。
上顎洞炎の症状には鼻づまり、黄色い鼻水、においが感じにくい、頭痛、悪臭、鼻水がのどに垂れる、視力障害、歯痛等があります。
治療のための内服薬には抗菌薬や消炎鎮痛剤等があります。
上顎洞炎の種類
上顎洞炎にはその原因により鼻からによるもの(鼻性)と歯からによるもの(歯性)があります。
鼻性上顎洞炎は両側の上顎洞が炎症を起こすこともありますが、歯性上顎洞炎では原因の歯がある方だけが炎症を起こします。
鼻性上顎洞炎の場合は、鼻が原因のため耳鼻科での診察が必要です。
鼻性上顎洞炎の原因
1.風邪(ウイルスや細菌感染)やアレルギーにより、鼻に炎症が起きる。
2.粘膜の腫れや鼻水によって、自然口(鼻腔と副鼻腔を繋いでいる穴)がふさがる。
3.副鼻腔から分泌物や異物を排泄できなくなり、鼻水や膿がたまる。
鼻性上顎洞炎の治療
・内服治療の他、鼻腔から細い管を挿入して膿の吸引、ステロイド剤や抗生剤を霧状に吸入させるネブライザー治療があります。
・鼻性上顎洞炎の外科的治療としては、内視鏡で上顎洞との交通が閉鎖している鼻腔粘膜を切除・開放し、上顎洞に溜まっている膿を出す手術(内視鏡下鼻副鼻腔手術:ESS)があります。
歯性上顎洞炎
歯性上顎洞炎の場合は、歯が原因のため歯科や歯科口腔外科での診察が必要です。
症状は、急性期では患側の眼窩下部の腫脹、疼痛、歯牙の痛み、鼻閉感、鼻汁等です。
慢性期では明確な症状に欠けることも多く、片頭痛、頭重感、鼻閉感、歯牙の違和感等が生じることがあり、歯科エックス線、CTで偶然発見されることもあります。
原因は上顎奥歯の根尖病巣〈こんせんびょうそう〉や歯根嚢胞〈しこんのうほう〉等で、大きな病巣だけでなく小さな病巣でも感染源になり、原因歯の特定が重要になります。
また、インプラント治療に関連して上顎洞炎を発症することもあります。
歯性上顎洞炎の治療は、急性期では抗菌薬を投与し消炎をはかります。
慢性期では感染源の除去が原則で、根管治療または抜歯と内服治療が必要になります。また場合によっては、耳鼻科での処置も併用になることがあります。
今回は副鼻腔炎、特に上顎洞炎についてまとめてみました。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士
【参考文献】
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)
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