乳幼児期における親との食器共有について

乳幼児期における親との食器共有 患者様向け情報

この記事は、2023年8月に日本口腔衛生学会 フッ化物応用委員会から発行された「乳幼児期における親との食器共有について」に関する内容になります。このペーパーは、A4で1ページ程度のため、全文を以下に記載いたします。ぜひ皆様の日常の参考にして頂ければと思います。

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序文

以前から、親から子どもへのう蝕原因菌の感染を予防するために、親とスプーンやコップなどの食器の
共有を避けるようにとの情報が広がっています。

しかし、食器の共有をしないことでう蝕予防できるということの科学的根拠は必ずしも強いものではありません。

最近、親の唾液に接触することが子どものアレルギーを予防する可能性を示す研究内容[1]が報道されました。

それに付随し、親の唾液からう蝕の原因になるミュータンスレンサ球菌が子どもに感染するリスクを高めると報道で触れられていますので情報発信をいたします。

親からの口腔細菌感染は食器の共有の前から起こっている

最近の研究で、生後4か月に母親の口腔細菌が子どもに伝播していることが確認されています[2]。

食器の共有は離乳食開始時期の生後5~6か月頃から始まりますが、それ以前から親から子どもに口腔細菌は感染しているのです。

日々の親子のスキンシップを通して子どもは親の唾液に接触しますので、食器の共有を避けるなどの方法で口腔細菌の感染を防ぐことを気にしすぎる必要はありません。

う蝕の原因菌は、ミュータンスレンサ球菌だけではない

親のミュータンスレンサ球菌が子どもに感染することは複数の研究で確認されています[3]。

しかし、口腔内には数百種以上の細菌が存在し[4]、ミュータンスレンサ球菌だけでなく多くの口腔細菌が酸を産生し、う蝕の原因となりますので、ミュータンス連鎖球菌だけがう蝕の原因菌ではありません [4, 5]。

食器の共有に気を付けていても、子どものう蝕に差はなかった

う蝕は砂糖摂取や歯みがきなど様々な要因で起こるため、食器の共有と子どものう蝕の関連を調べる
際にはそうした要因を考慮する必要があります。

う蝕に関連する複数の要因を調べた日本の研究では、3歳児において親との食器共有とう蝕との関連性は認められていません[6]。

子どものう蝕予防のために

親から子どもに口腔細菌が伝播したとしても、砂糖の摂取を控え、親が毎日仕上げみがきを行って歯垢
を除去し、またフッ化物を利用することでう蝕を予防することができます。

特に、フッ化物の利用は多くの論文でう蝕予防効果が確認されている方法です。

フッ化物配合歯磨剤の利用方法は 4 学会合同の推奨方法が出されていますのでご参照ください[7]。

まとめ

・むし歯の原因菌は、ミュータンス菌だけではありません。
・食器を分けても、むし歯予防になりません。
・むし歯の予防には、砂糖の摂取を控え、歯磨きで歯垢を除去することが必要です。
・フッ化物(フッ素配合の歯磨き粉等)を利用することで、むし歯を予防することができます。

この記事が少しでも参考になれば幸いです。

参考文献

1. Kubo Y, Kanazawa N, Fukuda H, Inaba Y, Mikita N, Jinnin M, Furukawa F, Kuraishi Y, Yoshihara S: Saliva contact during infancy and allergy development in school-age children. Journal of Allergy and Clinical Immunology: Global 2023, 2(3):100108.
2. Kageyama S, Furuta M, Takeshita T, Ma J, Asakawa M, Yamashita Y: High-Level Acquisition of Maternal Oral Bacteria in Formula-Fed Infant Oral Microbiota. mBio 2022, 13(1):e0345221.
3. da Silva Bastos Vde A., Freitas-Fernandes L. B., Fidalgo T. K., Martins C., Mattos C. T., de Souza I. P., Maia L. C.: Mother to child transmission of Streptococcus mutans: a systematic review and meta-analysis. J Dent: 2015: 43(2):181-191.
4. Selwitz RH, Ismail AI, Pitts NB: Dental caries. The Lancet 2007, 369(9555):51-59.
5. Takahashi N, Nyvad B: The role of bacteria in the caries process: ecological perspectives. J Dent Res 2011, 90(3):294-303.
6. Wakaguri S, Aida J, Osaka K, Morita M, Ando Y: Association between caregiver behaviours to prevent vertical transmission and dental caries in their 3-year-old children. Caries Res 2011, 45(3):281-286.
7. 口腔衛生学会、小児歯科学会、歯科保存学会、老年歯科医学会:う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法【普及版】について https://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/news/2023/news_230303.pdf

「乳幼児期における親との食器共有について(日本口腔衛生学会 フッ化物応用委員会編)」

日本口腔衛生学会
日本口腔衛生学会は、口腔衛生学の進歩と発展を図り、もって国民の健康と福祉の増進に寄与することを目的として設立された学会です。

葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科 部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校 校長(千葉県柏市)
田島聖士

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