この記事では歯並びと歯列矯正について、これまでの私の臨床経験と知見を中心に分かりやすくまとめました。
歯並びについて
歯並びが悪い場合は、一般的に次のようなことが起こる可能性があります。
・歯磨きが難しいため、むし歯になりやすくなる。
・歯磨きが難しいため、歯周病が進行しやすくなる。
・咬み合わせが悪くなる。
・顎の骨の成長発育に影響が出ることがある。
・顎関節症になりやすくなる。
・顎周りの筋肉の歪みから頭痛、肩こりになりやすくなる。
・口周りの筋肉の歪みから上手に発音できないことがある。
・口周りの見た目がコンプレックスになる。
・口内炎ができやすくなる。
歯並びと遺伝について
歯並びに影響するものは遺伝が2~3割、生活習慣が7~8割と言われています。
親の顔、骨格、身長が遺伝するように、顎と歯の大きさの遺伝によって、歯並びに影響を与えます。
それにより、八重歯、出っ歯、受け口、ガタガタの歯並びになる可能性があります。
また、歯並びに影響する生活習慣には、食生活、癖(くせ)、姿勢、むし歯等です。
次のような生活習慣がある場合は要注意です。
固い物を食べない(顎の発育が悪くなります)、指しゃぶりをする、舌の癖(舌を前に出す、舌で前歯を押す、舌を咬む)がある、頬杖をつく、姿勢が悪い、虫歯が原因で抜歯した等がある場合は、歯並びが乱れることがあります。
歯並びが気になる場合、乳歯が生え揃った時には、歯並びに問題がないか歯科医師の診察を受けることをお勧めします。
矯正治療の目的
目的は歯並び、咬み合わせの改善です。良好な咬み合わせを維持することでQOL(生活の質)の向上を図ります。
・虫歯や歯周炎等の予防
・顎の骨の成長発育障害の予防
・噛むことの改善と維持
・口がうまく閉じられないことを改善
・発音の改善
・顎関節と咬み合わせとの調和
・体のバランスや運動能力の改善
・一般歯科治療を行うために必要な歯の移動
矯正治療の種類
・ワイヤー矯正
歯の表面にマルチブラケット(金属製、プラスチック製、セラミック製)という矯正装置を取りつけ、そこにワイヤーを通して、歯を動かす治療方法です。
・裏側矯正
マルチブラケットを歯の表側ではなく、裏側に装着(リンガルブラケット)して矯正を行う方法です。矯正装置が見えないため、矯正していることが周りの人に気付かれにくい方法です。
・マウスピース矯正
ワイヤーやブラケットを使わず、マウスピース型の透明な矯正装置を2週間ごとに交換して少しずつ矯正を行う方法で、マウスピースは自分で取り外し可能です。
・床矯正、拡大床
床矯正とはプレートタイプの矯正装置を用いた矯正の方法で、歯を動かすためのバネと拡大用のスクリューが組み込まれています。床矯正装置は自分で取り外し可能です。
主に小学校低学年~高学年の混合歯列期に、歯列幅を拡大するために使用します。
小児矯正と成人矯正について
歯列矯正には小児矯正と成人矯正があります。
・小児矯正
一般的に小児矯正は2つの期間(第一期治療と第二期治療)に分けられます。
第一期治療(6~12歳)は、乳歯と永久歯が混ざり合っている混合歯列期に行われる矯正治療です。将来的に永久歯が理想的な場所に生えて咬み合わせが良くなるように、まずは上顎と下顎の成長、上下顎のバランスを整えていきます。
主に、床矯正と呼ばれる取り外し式のものを使用して、成長に合わせて装置の調整や追加作製して顎の成長を促します。
指しゃぶりや舌の癖などは顎の発育に悪影響を及ぼすため、癖の改善もしていきます。第一期治療で永久歯がきれいに並んだ場合は、治療が終了になることもあります。
第二期治療(12歳以降)では、永久歯が生え揃った状態で、歯並びや咬み合わせを改善します。治療方法は成人矯正とほぼ同じで、ブラケットとワイヤーを使用したブラケット矯正、マウスピース矯正、裏側矯正等の種類があります。矯正治療と同時に、歯磨きの正しい仕方等の習慣を身につけることもとても重要になります。
・成人矯正
成人の歯列矯正はいつでも始めることができます。
40代以降では、虫歯等で歯を失っている場合、歯周病で骨が減っている場合があります。
矯正治療の前にはまず歯周病等の治療が必要になるため、その治療が優先となります。
大人が矯正治療を行う利点としては、見た目のコンプレックスが解消される、きれいな歯並びのため歯磨きがしやすくなり虫歯や歯周病が予防できる等が挙げられます。
歯並びが気になる場合、矯正治療に興味がある場合には、歯科医師の診察を受けるのをお勧めします。
歯列矯正の期間と費用について
歯科医院によって費用は異なりますが、相場は次のようになっています。矯正治療に関わる費用は、基本的に全て保険外診療になります。
・小児矯正
第一期治療(6~12歳)
一つの床矯正装置の相場は3万円~6万円で、第一期治療の総額相場は20万円~40万円です。症状が軽い場合では、使用する床矯正装置の数が少なくて済みます。
期間は約1〜2年です。
使用方法は歯科医師の指示に従って効果的に矯正治療をすることが重要になります。
第二期治療(12歳以降)
第二期治療の総額相場は30万円~60万円です。
期間は約1〜3年で、保定期間は約1〜3年です。
・成人矯正
成人矯正の総額相場はブラケット矯正が70万円~100万円、マウスピース矯正(インビザラインが80万円~100万円、アソアライナーが10万円~40万円)、裏側矯正が100万円~150万円です。
矯正期間は約1〜3年で、保定期間は約1〜3年です。
今回は歯並びと歯列矯正についてまとめてみました。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士
【参考文献】
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)
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