この記事では、血液サラサラ薬を飲んでいる患者さんが歯科受診時、特に抜歯等の口腔外科的治療時に注意することについて分かりやすく説明します。
AOI国際病院 歯科口腔外科(神奈川県川崎市)部長 田島聖士
血栓症〈けっせんしょう〉とは
血栓とは、血管をふさいで詰まらせてしまう血のかたまりのことです。
血管の中にこの血栓ができてしまうと、血管が詰まって循環不全が起こる血栓症という病気になってしまいます。血栓が脳に飛ぶと脳梗塞、心臓に飛ぶと心筋梗塞、肺に飛ぶと肺塞栓症(エコノミー症候群)となります。
血栓症の原因には下記の3つがあります。
1.血管によるもの
動脈硬化によって血管が固くなってしまうと、血液の流れが悪くなり血栓をできやすくなります。
2.血流によるもの
飛行機などで長時間同じ姿勢をしていること等、血液の流れが悪くなることによって起こるもので、肺塞栓症(エコノミー症候群)などが代表的です。
3.血液によるもの
通常より固まりやすい血液では血栓ができます。高血圧・糖尿病・高脂血症などの慢性疾患により、血栓が作られやすいです。ピル(女性ホルモン剤)も血液を凝固しやすい成分が含まれるため、血栓を引き起こす原因になることがあります。
血液サラサラ薬とは
血液サラサラ薬は抗血栓薬〈こうけっせんやく〉のことで、血をサラサラにしたり、血小板が働きにくくなるために血が固まりにくくする薬です。
血液サラサラ薬は、脳梗塞〈のうこうそく〉・心筋梗塞〈しんきんこうそく〉・不整脈〈ふせいみゃく〉・心臓手術後などの患者さんが予防や治療のために飲んでいます。
血液サラサラ薬は大きく分けて、抗血小板薬と抗凝固薬(ワルファリン、または直接経口抗凝固薬DOAC:Direct Oral Anticoagulant)に分類されており、病気により使い分けられています。
抗血小板薬の商品名:
バイアスピリン®︎、バファリン81®︎、パナルジン®︎、チクロピジン®︎、プラビックス®︎、プレタール®︎、ペルサンチン®︎、アンギナール®︎、アンプラーグ®︎、エパデール®︎、ロトリガ®︎、ロコルナール®︎、ドルナー®︎、プロサイリン®︎、オパルモン®︎、プロレナール®︎、エフィエント®、ブリリンタ®
抗凝固薬の商品名:
ワルファリン®、プラザキサ®、イグザレルト®、エリキュース®、リクシアナ®
血液サラサラ薬を飲んでいる患者さんが注意すること
・歯科受診時に、飲んでいる血液サラサラ薬の名前を全て伝えましょう。
血液サラサラ薬を2種類以上飲んでいる場合はさらに注意が必要になります。また薬(DOAC)によっては、抜歯する時間帯を調整する必要があります。
・かかりつけ医科の病院名と先生の名前を伝えましょう。
・その他にも飲んでいる薬や治療している病気があれば全て伝えましょう。糖尿病や肝機能、腎機能障害などがある場合はさらに注意が必要になります。
・患者さんご自身の判断による血液サラサラ薬の中止は危険のため、絶対にしないでください。
また、体の状態とお口の状況によっては、
・歯科医師が、かかりつけ医科の先生にお手紙を書き、病状や薬のことを確認することがあります。医科と歯科が連携して治療を進めていきます。
・全身管理や手術の設備が整った総合病院や大学病院の口腔外科での歯科治療が必要な場合があります。
・さらに入院が必要となる場合もあります。
血液サラサラ薬を飲んでいる患者さんの抜歯
昔(1990年代まで)は、血液サラサラ薬を中止して抜歯するのが一般的でした。しかし、薬を中止した際に、脳梗塞や心筋梗塞を発症するリスクが高いことがわかりました。
そのため、現在は基本的に、血液サラサラ薬を中止して抜歯(口腔外科処置)することはありません。最新のガイドライン(抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年版)にも、その内容が記載されています。
患者さんご自身の判断による薬の中止は危険のため、絶対にしないでください。
抗凝固薬のワルファリンという薬を飲んでいる方は、抜歯の直前に採血して、血のサラサラ具合を確認(PT-INR)する必要があります。最新のガイドラインでは、各疾患のPT-INR至適治療域の記載があります【非弁膜症性心房細動:1.6-2.6(70歳未満)、2.0-3.0(70歳以上、人工弁:2.0-3.0、静脈血栓・塞栓症:1.5-2.5】。
しかし、その他の血液サラサラ薬にはそのようなサラサラ具合を確認する指標がありませんので、歯科医師の判断となります。不明な点は担当の歯科医師にご確認ください。
かかりつけ歯科医院での抜歯が難しい場合(手術の設備、基礎疾患の管理、他の内服薬との飲み合わせ等)は、総合病院や大学病院の口腔外科で抜歯を行うことになります。
血液サラサラ薬を飲んでいる患者さんの抜歯には、適切な止血処置を行う必要があります。止血の方法には下記のようなものがあり、もしもの出血に備えてしっかりと準備して抜歯などの処置を行います。また必要に応じて、血圧や脈拍等を確認しながら行います。
- 止血用の薬液を浸したガーゼでの圧迫
- 局所止血剤の使用
- 縫合処置
- 止血用粘土を使用しての圧迫
- さらに、止血用マウスピースを用いて圧迫
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士
【参考文献】
・科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン 2020、2015年改訂版
・最新口腔外科学第5版(榎本昭二他、医歯薬出版株式会社)
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)
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