この記事では、歯が1本もない方のインプラント治療の方法について、実際の症例を提示して患者様向けにまとめました。
初診時の口腔状態
患者様は60代の男性です。
受診理由は「残っている下の前歯がグラグラ揺れていて食事がしにくいため、下にもインプラントを入れて噛めるようにしたい」ということでした。
下は前歯のみ数本残っている状態でしたが、歯周病が進んでいて全てグラグラと揺れていました。
インプラント治療前の診査
CT撮影などの検査を実施後に、抜歯を含めた治療計画を作成し患者様にご説明しました。
抜歯後の治療方法としては総入れ歯とインプラントの2種類を提示し、その利点・欠点について説明したところ、患者様はインプラント治療を希望されました。
インプラント治療の経過
・口腔内の状況を改善するために、まずは歯周病治療を行いました。
・CT画像と歯の模型からシミュレーションソフトを用いて、インプラント手術のシミュレーションを行い、サージカルステント(インプラント手術用のマウスピース)を作成しました。
・静脈内鎮静下(ウトウト眠った状態)で、下の歯の抜歯と同時にインプラント手術(インプラント6本+仮歯用の暫間インプラント6本)をガイデッドサージェリーで行いました。
・患者様は治療期間中の暫定的な入れ歯も使用したくないとのことでしたので、インプラント手術当日に暫間的な仮歯も作りました。また仮歯は歯肉の状態に合わせて3回作り変えることとしました。
・インプラント手術後3カ月で、インプラントと骨がくっついているのを確認後、2回目の手術を行い仮歯を作り変えました。
・ここの段階で、患者様から上のインプラントも一緒に作り直してほしいとの希望がありましたので、上のインプラントを外して状況を確認しました。
・3回目の仮歯を作製し、不自由なく使用して頂きました。
・上と下のインプラントを使用して、型取りや咬み合わせを何度か行い、口腔内の状態を模型上で再現するようにし、歯科技工士さんと話し合いながら治療を進めていきました。
・試適も慎重に行い、被せ物の作製を進めました。
・最終的な被せ物を装着し、咬み合わせの調整も行いました。
・その後は3カ月ごとの定期的なメインテナンスを行っています。現在、インプラント治療後5年以上経過していますが、特に問題なくご使用いただいています。
最後に
インプラントは治療前に十分な診査を行い、最終ゴールを見据えた治療計画を立案後に行うことが予知性の高い治療に繋がります。
この症例では、インプラント手術後から義歯を一度も使用することなく自分の歯のように食事を摂ることができ、インプラント治療は患者満足度の高い治療と考えられます。
これまでのところインプラント体や被せ物にトラブルは発生していませんが、今後もプラーク(歯垢)や歯石の除去・咬み合わせ管理の徹底を行い、定期的なメインテナンスを行っていく予定です。
今回は歯が1本もない方のインプラント治療の方法について、患者様向けにまとめてみました。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士
【参考文献】
・公益社団法人日本口腔インプラント学会編.口腔インプラント治療指針2020
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)
コメント