この記事では親知らずの抜歯について、これまでの私の臨床経験と知見を中心に分かりやすくまとめました。
親知らずとは
親知らずは、1番奥に生えてくる歯のことで、「第3大臼歯」、「智歯」、「8番」などと呼ばれ、通常は上下左右の計4本があります。
親知らずの全てが、抜歯が必要になるわけではありません。
しかし、親知らずは真っすぐに生えていないことが多いことから、歯磨きが十分にできずに様々な病気の原因になってしまいます。その場合は、抜歯するケースが多く、また難しい抜歯になることが多いです。
下記のような親知らずは、抜歯が必要になります。
・親知らずと手前の歯との境目に食べかすが詰まる場合や上手に歯磨きができない場合
・親知らず、または手前の歯との境目が虫歯になっている場合
・親知らずが斜めや横に生えてきて、周囲の歯肉に炎症がある場合
・エックス線で、親知らずの周囲に黒い影がある場合
親知らずの抜歯について
親知らずは、一部が歯肉や歯槽骨〈しそうこつ〉(歯を支えている骨)の下に埋まっていることが多いため、歯肉を切って開き、歯槽骨を一部削って抜歯が必要なることが多いです。
抜歯前には、担当の歯科医師にこれまでにかかったことのある病気、服用中の薬、アレルギー等を再度伝えて下さい。場合によっては、事前に抗菌薬(抗生物質)の内服等が必要な場合があります。
一般の歯科医院では抜歯が難しい場合、総合病院の歯科口腔外科での抜歯が必要になります。
通常は外来で局所麻酔のみで抜歯を行いますが、状況により静脈内鎮静法下(ウトウト眠った状態)での抜歯や入院(2泊3日以上)して全身麻酔下での一括抜歯(1回で全部の親知らずを抜歯する方法)を行うこともあります。
その際は、歯科医院からの紹介状とお薬手帳を持参して総合病院の歯科口腔外科を受診して下さい。
親知らず(埋伏智歯)抜歯について
- 抜歯部位に局所麻酔をする。
- 歯肉を切開し、切開した部分の歯肉をめくる。
- 周囲の歯槽骨を一部削って、歯を細かく分割する。
- 抜歯器具を用いて歯を抜く。
- 抜歯した部位の不良な肉芽組織〈にくげそしき〉(炎症を起こしている柔らかい組織)を除去する。
- 抜歯した部位のお掃除して洗浄する。
- 必要があれば止血剤を入れて縫合する。
- ガーゼ等で圧迫止血をする。
親知らず抜歯後の合併症等について
抜歯後は下記のような症状が出ますので、事前に担当の先生に説明をしっかり聞いておきましょう。
・疼痛(痛み):抜歯当日と翌日がピークです。
・出血:翌日までは血がジワジワと出てきますので、抜歯当日はできるだけガーゼを咬んでいた方がいいです。
・腫脹(腫れ):抜歯後2日後がピークで、ビックリするくらい腫れますが、1週間かけて引いていきます。上顎よりも下顎の方が腫れます。
・開口障害(口が開かなくなる):腫れがひどいほど、口が開かなくなります。
・下歯槽神経の知覚異常(下唇周囲の感覚麻痺):一度症状が出ると、数カ月間は持続してしまいます。
・口角炎等
その他の注意事項について
・抜歯当日は、お風呂はシャワー程度にして、運動・お酒・タバコは控えて安静にして下さい。
・抜歯の翌日以降は、自分の体調次第で運動等は行えます。
・食事は普通に出来ますが、口が開かないときは、お粥やゼリー状のものが食べやすいです。
・歯磨きは、歯ぐきを縫っている部分以外は普通にできますが、縫合しているところは軽くうがいする程度にして下さい。
・抜歯したところを氷などで冷やさない方がいいです。
・痛い場合は、我慢せずに痛み止め(消炎鎮痛薬)をしっかり飲みましょう。
・薬を飲んでも我慢できないほど痛い場合、出血が多い場合等は、担当の先生に連絡して受診しましょう。
・縫った糸は、通常1週間後に取りますので、受診の予約をして下さい。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
【参考文献】
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)
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