この記事では、主に鼻下の膿の袋(鼻口蓋管嚢胞・上顎の顎骨嚢胞の1つ)について、これまでの私の臨床経験と知見を中心に分かりやすくまとめました。
鼻口蓋管嚢胞とは
胎生期の鼻口蓋管の残存上皮に由来する顎骨の非歯原性嚢胞です。鼻口蓋管嚢胞は1931年にMayerによって正中前方顎嚢胞(Median anterior maxillary cyst)として初めて報告されました。
切歯管の部分にできたものを切歯管嚢胞、口蓋の粘膜下に生じたものは口蓋乳頭嚢胞とよばれています。
発生頻度は、顎骨内に発生する嚢胞の約1~5%で、30~50歳代に好発し、男性に多いです。
発生の由来は、遺残上皮が種々の原因により反応性に増殖して嚢胞化すると考えられています。
臨床所見
口蓋の正中前方部や前歯部の歯肉唇移行部に骨性の膨隆を呈することが多いです。
嚢胞が小さい場合は無症状で経過するものが多く、嚢胞が大きくなると口蓋部に違和感・疼痛を認め、唇側歯槽突起・鼻腔底も膨隆し、唇側や口蓋側で羊皮紙様感を触知することがあります。
感染した場合は腫脹部位から排膿することもあります。
上顎中切歯の左右離開などをみることもあり、内容液は感染していなければ淡黄色です。
エックス線所見
切歯管嚢胞では、 単純エックス線写真で 切歯管相当部に円形またはハート形の透過像を認めます。
CT写真では、鼻口蓋管周囲に境界明瞭な骨吸収像が認められます。
病理組織学的所見
通常、重層扁平上皮で裏装されているが、その他として移行上皮、多列線毛上皮などがあります。また、杯細胞が介して粘液を分泌している像がみられることがあります。
1種類の上皮のみを有する場合は少ないとされており、口腔に近いものは重層扁平上皮、鼻腔に近いものは線毛上皮であることが多いです。
治療方法
嚢胞摘出術を行います。
摘出に際し、唇側・口蓋側のどちらからアプローチするかは、術前の画像診断によって、嚢胞の存在する位置、前歯歯根との位置関係から決定します。
比較的小さな嚢胞の場合、切歯管の部位に発生することが多いので口蓋側からアプローチすることが多いです。
嚢胞が大きい場合、前歯の歯根や鼻腔底との関係を直視するためにも唇側からのアプローチが容易になります。
嚢胞の位置や大きさによっては、歯根端切除術が必要になる場合もあります。
鼻口蓋神経・血管束は、嚢胞壁結合組織内に存在し切断せざるを得ないこともしばしばあります。しかし、同神経・血管束を切断しても障害が生じることはほとんどありません。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士
【参考文献】
・最新口腔外科学第5版(榎本昭二他、医歯薬出版株式会社)
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)
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